2011年05月06日

小説「約束」18/20…迷い

1月7日から始まったSFロマンスです。毎週金曜日に掲載して20話で完結します。今回は第18話です。

18 迷い

清野もその夜、初めて涼子に会った時のことを考えた。地上で発見された不審者として尋問室で涼子に面会した。何を聞いても的確に答えられなかったので、もしかしたら脳障害があるのかもしれないと精密検査を受けさせることを提案した。吉村部長はすぐにその案を採った。
重度の記憶喪失という検査結果から、体調回復と精神安定を兼ねてしばらく観察することになった。最初は女性の担当官を付けたらどうかという話も出たが、結局清野が適任であろうということになり涼子の担当を任された。

自由に行動できることを伝えに病室を訪ねたとき、一人ぽつんとベッドに腰掛けていた涼子の後ろ姿を見て、清野は彼女に名前が必要だと思った。
さわやかな感じをそのまま名前にして「さやか」と呼ぶことにした。涼子はその名前が気に入ったらしく、初めて笑顔を見せた。清野にはその笑顔がとてもまぶしく新鮮に思えた。
涼子を元気づけようと地下都市を案内することにした。ここに来た時の服装を見るとずいぶんと古い時代の物に見えたので、もし何かの原因で過去からタイムスリップして来たとすると、未来世界にはきっと興味を示すだろうと思った。

病院を訪ねるたびに涼子は明るくなっていた。ある時は老人たちと何やら話していて,何が可笑しいのか腹を抱えて笑っていた。その笑い声はいかにも楽しそうで、老人たちが彼女の周りに集まるのもうなずけた。
軍情報部の仕事は常に神経がピンと張った状態で気の休まる暇がなかったが、清野は幸いにも時間に縛られることがないので、たとえ数分間でも涼子に会える時間があれば病院を訪ねことができた。涼子に会うと疲れが一気に吹き飛んだ。清野は、今の自分にとって涼子の存在がとても大きいことに気づいた。

タカシは今まで眠れぬ夜を過したことなどなかった。でも今夜は違う。ここにいるはずのない涼子に会った。記憶を失ってはいるが確かに涼子だった。
『なぜ涼子がここにいるんだ?それに清野さんが言ってたさやかさんというのが涼子だったなんて。二人がこの世界で恋人になろうとしている。清野さんはいい人だけど、涼子を諦めることはできない。…落ち着け、冷静に考えるんだ。みんなにとって何が一番いい方法か考えるんだ。みんなにとって?そんなの無理だ。誰か必ず傷つくことになる。
清野さんは確か涼子が1年前からここにいると言ってた。ということはお互いに意識し始めてからまだそんなに経ってない。アイツの性格からしてすぐに熱くなるはずないし、清野さんの話からしてもお互いに告白してない感じだ。…でも、恋に期間は関係ないって言うし、清野さんが涼子を元の世界に帰すと言ったときのアイツの寂しそうな表情、あれがすべてを物語っているような気もする。
でも、今の状況って俺にはすごく不利な状況じゃないか?記憶のない涼子にとって俺は今日突然現れた人で、全く恋の対象にはならないはずだ。やっぱり、涼子に記憶を取り戻して、その上でもう一度考えてもらうのが公平じゃないか?でも、過去の記憶を取り戻した時、もしここでの記憶がなくなったら今度は清野さんが不利になる。
じゃあ、元の世界とここの両方の記憶が残ったらそれでいいのか?今度は涼子が辛くなるだけじゃないか。アイツをそんな気持ちにさせることは避けたい。あまりにもかわいそうだ。じゃあどうする。
あ、自分たちの事だけを考えるから考えがまとまらないんだ。涼子の父さん母さん、それに仲のいい姉さんも、突然いなくなった涼子を待ち続けてきっと悲しんでいるはずだ。でも、それって逃げじゃないか?みんなのことを考えるからいけないんだ。どう考えても誰かが傷つくなら、初めから涼子にとって何が一番いいのかを考えなくちゃいけなかったんだ。そうだ、それがいい。それしかない。じゃあ…』

タカシは気持ちが楽になった。今自分がとるべき行動が何か見えてきた。安心したら眠くなってきた。すうっと眠りに入った時、夢を見た。その夢がやがて正夢になることはタカシにはわからなかった。
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2011年04月29日

小説「約束」17/20…想い

1月7日から始まったSFロマンスです。毎週金曜日に掲載して20話で完結します。今回は第17話です。

17 想い

「さやかさん、ちょっと大切な話があるんだけど、いい?」
「はい」
さやかはディスプレーを検索画面に戻して、立ち上がって椅子を静かに机につけた。ちらりとタカシの方を見て、何か考えているふうだった。清野は二人を連れて行きつけの喫茶店に入った。清野とタカシが並んで座り、さやかが向かいの席に一人で座った。
マスターは三人の深刻な様子に気付き声をかけずにいた。
「ホットコーヒー2つとウィンナコーヒー1つお願いします」
ウィンナコーヒーという言葉を聞いたとき、さやかはタカシの顔をまたちらりと見た。店内には他に客がいなかった。マスターはコーヒーを運んでくるとそのまま厨房に姿を消した。清野が静かに話し始めた。
「さやかさん、こちらは西条タカシ君です」
その名前を聞いたとき、さやかはこめかみに手をやった。
「大丈夫ですか?」
「ええ、ちょっと…、もう大丈夫です」
「タカシ君、こちらがさやかさんです。と言っても、今はもう涼子さんと呼んだ方がいいかもしれませんね」
さやかは二人の話している内容がわからなかった。
「さやかさんはここに来た時、それ以前の記憶をみんな忘れてしまっていました。その後我々の調査で、過去から何らかのきっかけでこの世界にやってきたことはわかりましたが、それ以上の詳しいことは何もわかりませんでした。
ここにいるタカシ君は2011年からこの世界に来ました。所持品がそれを証明しています。そして、さやかさん、どうやらあなたも2011年から来たみたいなんです。タカシ君はあなたのことをよく知っています。あなたの本当の名前は涼子といいます。タカシ君、彼女に間違いありませんね?」
タカシは涼子の目をじっと見つめながら、ゆっくりとうなずいた。

涼子はタカシの顔に見覚えはなかったが、以前どこかで会ったような、幼い頃の遠い記憶の中にいる人のような気がした。でも思い出せなかった。無理して思い出そうとすると頭がずっしりと重くなる。
「りょうこ?…それが私の名前なんですか?」
涼子の問いかけにタカシは落ち着いてゆっくり話した。
「桂木涼子、それが君の名前だ。俺たちは同じ高校に通っている同級生だ。君にはお姉さんと両親がいる。君がどうやってここに来たかは知らないが,皆とても心配していると思う」
清野の心には二つの思いが交錯していた。
「セイノさん、タカシさん、私が本当に桂木涼子だとして、もし以前の記憶を取り戻したらきっと元の世界に戻りたくなると思います。でも私はここで多くの人に助けられ、励まされ、そのご恩返しと思って私にできることをいろいろお手伝いさせてもらっています。皆さん優しくしてくれるし、それに…」
涼子は何か言い出そうとしたがうつむいて黙ってしまった。
「とにかく、元の世界ではさやかさんの、いや、涼子さんのご両親やたくさんの人が心配しているはずです。その人たちを安心させることが、一番大事なことじゃないでしょうか。いつかきっと帰ってくると信じて、ずうっとあなたのことを待っているんですよ。そのことを忘れてはいけません。」
涼子はうなずいた。
「こうして涼子さんの来た年代が明確になった以上、私としても、あなたの記憶を取り戻して元の世界に返すという義務があります」
清野のこの言葉に、涼子がほんの一瞬悲しそうな目で清野の顔を見た。タカシは今までに味わったことのない気持ちを感じた。
「この先どうするかは記憶を取り戻してから考えたほうがいいと思います。今の涼子さんは正確な状況判断ができる状態ではありません。明日私たちと一緒に時空研究所に行ってみませんか?」
「ジクウ研究所?」
「ええ、簡単に言うとタイムマシンを研究している所です。私たちはさっきそこの所長といろいろ話してきました。タカシ君を元の世界に返そうということで話が進んでいたんですが、その前にさやかさんに会って確かめずにはいられなかったんです。どうやら私の勘が当たったようですね。きっと何か解決策が見つかると思います。一緒に行ってみましょう」
涼子は静かにうなずいた。
「よかった。じゃあ、明日の朝8時に病院に迎えに来ます。出かける準備をしていてください」
「わかりました」
涼子は立ち上がる二人を見た。もしかしたら、自分がタカシの恋人だったのではないかと思った。記憶が戻ったとしても戻らなかったとしても、誰かが悲しい思いをすると思うと自分ではどうしていいかわからなかった。

その夜、涼子はここに来てからのことを考えた。
1年くらい前、気がついたら暗い道に倒れていて、周りを銃を持った兵士たちに取り囲まれていた。手首を縛られて両脇を固められ、軍用車で近くの建物に連行された。小さな会議室のような部屋でいろいろ尋問された。兵士たちの手荒い振舞いと違い、目の前に座っている軍服姿の人たちは物腰が柔らかいので怖い気はしなかったが、質問される内容については何一つ答えることができなかった。
脳に障害がないか精密検査を受けることがその場で決まり、すぐに病院に連れて来られた。検査の結果、重度の記憶喪失と診断されたので、体力の回復や精神安定のためにしばらく入院することになった。
1週間くらいで自由に行動することが許されたが、時々起こる激しい頭痛を考慮してその後も病院で暮らすことになり個室が用意された。部屋でじっとしているよりも一日の大半は図書館で過した。ここでいろいろな老人たちと知り合い、本のことや老人たちの若い頃の話を聞くようになった。いつしか入院している老人たちの病室を訪ねるようになり、毎日のたわいのない話をする時間が増えた。老人たちも涼子と話して時間を過すのを楽しみにするようになり、やがてそのことがナース長や医師に伝わって老人たちの心のケアーに協力するようになった。

清野と初めて話したのは行動が自由になった日だ。名前がないと何かと不自由だろうということで、「さやか」という名前で呼ぶことになった。最初に地下都市の案内をしてもらった。見たことのない乗り物や設備に目を見張った。一つ一つ清野がわかりやすく説明した。左手首に着けているIDブレスレットの機能も教えてくれたが、立体像の浮き上がるテレビ電話はリアルすぎて使う気になれなかった。
涼子が倒れていた場所にも連れて行ってもらった。このとき初めて地上のすさまじさを見て驚いた。清野から中韓連合軍との長年にわたる戦争の話を聞き、なぜ分かり合えないんだろうと悲しい気持ちになって涙が止まらなかった。
ある時、清野はこの戦争の犠牲となった両親の事を話してくれた。涼子はその話を聞いて、自分がどうしてここにいるのかなんて、考えても解決しないことは考えないことに決めた。このことが涼子を強くし、そして明るくした。涼子は心の中で清野に感謝し、いつしかその気持ちは淡い恋心にかわっていった。しかし、そのことは口に出さなかった。

そしてタカシが現れた。タカシが自分にとってどんな人なのかは二人の話を聞いて想像できたが、会ったばかりの人にたとえ恋人ですと言われてもそれを受け入れることはできなかった。ここに来てからのことを考えても、思い浮かぶのは清野との楽しい時間ばかりだった。
いつしか涼子は眠りにつき、夢を見た。広いグランドを駆ける学生服を来た人に大声で叫んでいる。それが誰なのかはわからない。
やがて涼子は深い眠りに入った。
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小説「約束」16/20…再会

1月7日から始まったSFロマンスです。毎週金曜日に掲載して20話で完結します。今回は第16話です。

16 再会

タカシの唐突な言葉に、小菅医師が単刀直入に尋ねた。
「ご両親かね?」
「いえ、誰よりも俺を心配してくれている人です」
「恋人…かね?」
タカシは耳が熱くなる気がして、下を見てうなずいた。清野以外の3人は顔を見合わせながら、それぞれの表情でうなずき合った。
「西条君、君の気持ちはよくわかった。我々軍情報部としては、君を元の世界に返すことは何も問題がないと判断している。ただ、今博士がおっしゃったような危険が少しでもあるのであれば、再度検討の余地があると思う。それと、移動する年月日も重要なことだ。君がここへ来た君の時間、つまり2011年12月5日の前に戻すわけには行かない。移動先の指定時間に±30日の誤差があるのであれば、その誤差も考慮しなければいけないから、少なくとも2012年1月5日以降を時間指定しなくてはなるまい。博士、どうですか」
「吉村部長の言うとおりだ。君が最終的に存在した時間よりも前に返すということは、過去を変えるということにもつながるから、それは科学者の端くれとしては認めるわけにはいかん。私がそれよりも問題にしたいのは、たとえ数%とはいえ、失敗の可能性があるという事実だ」
田沢博士の言葉には現場の人間の発言らしい重みがある。
「でも博士、わしのところに最後に連れてきた失敗例は、あれはかなり前だったなあ。去年の夏頃じゃなかったか?子豚だったな、確か。あの後はみんな成功してるんじゃろ?月に何回実験しているんだ?」
「一週間に1回の割合だから、月にすれば4〜5回だ」
「この実験は何年前からやってるんじゃ?猫を連れて来たのは確か6年くらい前だと思うが」
「物体実験が3年、マウスによる生体実験が1年あった。いずれも月単位の成功率はだんだん高くなっていた。マウスから猫に切り替えた時にあの事故が起きた。その後も何度か失敗している。特に、生体の大きさが変わったときに事故が起きやすい。子豚に変えた時の最初の事故が去年の夏のことだ。今年の夏から親豚で実験している」
「ということは、親豚に変えた時には事故が起きなかったということじゃな?」
「そうだ」
「じゃあ博士、その親豚に変えてからの成功率は、つまりここ半年間の成功率はどうなんじゃ?」
「今のところ100%だ。日時もだんだん誤差が小さくなってきている」
そのとき、清野の様子を気にしていた吉村部長が口を開いた。
「清野君、さっきから黙ったきりだが、何か問題があるのかね?」
「いえ、何も問題はありません。ただ…」
「ただどうした?言ってみたまえ」
「もしかしたら、この議論が全く無用になるかもしれません。私とタカシ君に時間をいただけませんか? 明日、もう一度ここにお集まりいただけないでしょうか。皆さんの忙しいのは十分承知しております。しかし、タカシ君にとってはとても重要なことになるかもしれません。お願いします。私たちに時間をいただきたいと思います。お願いします」
3人は顔を見合わせた。
「わしは暇じゃから、構わんよ。博士、あんたもそんなに忙しくないじゃろ?」
「博士、私からもお願いします。清野がここまで言うのはよほど何か事情があると思われます」
「わかりました。タカシ君を危険な目に合わせなくてすむかもしれないのだったら、今日の話は時間を置いて考えるというのも悪くはないでしょう。では明日の同じ時間ということでいいね、清野君」
「はい、ありがとうございます。皆さん、ありがとうございます」

清野はタカシを連れて研究所を後にした。車の中でも終始無言だった。タカシは清野が何を考えているかわからなかったが,いま尋ねても返事は帰ってこないだろうと思って口を閉じていた。
地下都市に到着すると,清野は早足で病院に向かった。タカシは黙って彼について歩きながら,常に冷静な清野が自分のために研究所であれほど熱弁を振るってくれたことがとてもうれしかった。
エレベータに乗ると地下6階のボタンを押した。さやかが入院しているという施設のある所だ。なぜ今ここに来なければならないのだろうとタカシは不思議に思った。しかし、その答はすぐにわかることだった。清野はナースセンターに立ち寄って、ナース長の田仲に挨拶した。
「おはようございます」
「あら、清野さん、おはようございます。さやかさんに会いに来てくれたのね。さやかさんなら図書室で本を読んでるわ。彼女を呼んで来ましょうか」
「私が行きます。どうもありがとうございます」
清野は入院患者たちが利用する図書室へ向かった。淡い若草色が基調の落ち着いた色彩の部屋に入ると、机の上にディスプレーが埋め込まれていて、それぞれ好きな角度に調節して読んでいる。観葉植物やいろんな花が植えられている一角の、やや奥まった席にさやかは座っていた。いつもの席らしく、清野はまっすぐそこに向かった。後ろ姿しか見えないが、近づくにつれて、タカシの目は大きく見開いた。
「あそこにいるのがさやかさんです」
清野は小声でタカシにささやいた。少し背中にかかった潤いのあるさらさらした髪、見覚えのある後ろ姿だった。
「さやかさん、おはよう」
「あ,おはようございます」
振り向いたその顔を見てタカシは自分の目が信じられなかった。
「涼子…」
さやかは知らない人を見る顔でタカシを見たが、間違いなくその表情は涼子だった。
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2011年04月15日

小説「約束」15/20…時空間研究所

1月7日から始まったSFロマンスです。毎週金曜日に掲載して20話で完結します。今回は第15話です。

15 時空間研究所

清野は午前8時少し前に迎えに来た。時間に正確なのは、軍人という仕事柄というよりも清野の性格によるところが大きい。ドアを開けると、いつもの明るい笑顔の清野がそこに立っていた。
「おはようございます」
「おはよう。おなかがすいたでしょう。美味しい店に案内します。すぐ出かけられますか?」
清野はタカシを連れてエレベータに乗った。エレベータを降りると正面が和食街、右が中華街、左が洋食街に分かれていた。
「タカシ君、私がよく通っている店に行きましょうか。自家製の分厚くて柔らかいトーストと、ハムとトマトとモッツァレラチーズを重ねてそれに半熟卵がのっかったハムエッグが自慢の店なんです」
「なんかおいしそうですね」
「じゃあ、そこにしましょう」
清野は洋食街に向かって歩いた。数軒目のこじんまりした洋風の店に入ると、カウンターの中にいたマスターが笑顔で二人を迎えた。
「いらっしゃいませ」
「おはようございます。ここ、座っていいですか」
「ええ、どうぞ」
「トーストとハムエッグ2人分お願いします」
「かしこまりました」
狭い店内はほぼ満席で、BGMには聞き覚えのある音楽が流れていた。食事をしている人たちは静かな声で話し、この店の雰囲気を味わっていた。

食事を終えて外に出ると、すれ違う人々が二人の服装に注目しているのがわかった。行き交う人はすべて淡い色の服装なので、濃緑の軍服と黒色の学生服では地下都市では目立ちすぎるのだった。
「タカシ君、別の服を用意しましょうか?」
「俺はこのままでいいです」
「そうですか。じゃあ、すぐに研究所に出かけましょうか。研究所はこの地下都市を出て10分くらいで着きます。上に車を待たしてありますから、それで行きましょう」
「またあのごつい車ですか?」
「ははは、最新技術で造られた装甲車もタカシ君にはかないませんね。地下都市間を結ぶ高速車がありますから、今日はそれで行きます。すごい速さですよ」
「あの車の加速もすごかったですね」
「今日のはあんなもんじゃありません。居住性と安全性は完全にプログラムされていて、最初に乗った時は誰でも驚きます」
タカシは、常に冷静な清野が言うのだからかなりのものだろうと思った。1階のターミナルに行くと、そこには1台のシンプルな青い車が待っていた。清野が先に乗り込み、タカシを隣に座らせた。ドアが閉まり、ホルダーが降りてからだを固定した。清野の指示でドライバーは車を発進させた。車線を変え高速レーンに入ったとき、タカシの身体はかつて感じたことのない力で、シートに押し付けられた。定速になって加速度を感じなくなるまで、言葉が出なかった。直線道路をこのスピードで10分というと、研究所はここから40〜50km離れているのだろう。

やがて車は速度を落とし左に車線変更した。前方に時空間研究所の案内板が見えた。誘導灯に従って進み、セキュリティチェックと書かれたゲートを通過した。青色の矢印で示された方向に進むと前方に建物が見えた。車はその玄関前で静かに止まった。ホルダーが上がりドアが開いた。タカシに続いて清野が降りた。清野は降りる前にドライバーにここで待つように指示した。
「さあ、行きましょうか。吉村部長と小菅先生は先に来ているはずです」
研究所のセキュリティゲートでIDをチェックして中に入った。研究所内には静かなBGMが流れていた。玄関ホール正面のエレベータに乗ると清野はB5のボタンを押した。エレベータはすうっと動き、再びドアが開くとそこには広い廊下が見えた。白衣を着た研究員が数名歩いている。
清野が「第7研究室」のドアのすぐ横にあるIDセンサーに左腕を近づけると、ドアのロックが解除された。厚いドアが開くと、部屋の真ん中にガラスで覆われた大きな装置が見えた。

情報部長の吉村や小菅医師は、その装置の前で白髪の男と話をしていた。清野は三人に挨拶をしてからタカシをその男に紹介した。
「博士、こちらが西条崇君です。タカシ君、この方が時空間研究所の田沢所長です」
「初めまして、西条崇です」
「田沢です。見ての通りの老いぼれだが、よろしく頼むよ。君のことは清野君から報告を受けているが、元の世界に帰りたいというのが希望なんだね」
「はい」
「ん。この目の前にある装置が、物体の時空間移動を可能にする装置だ。簡単に言うと、君を元の世界に送るタイムマシンだ。我々が長年かけて研究してきた装置だが、いくつか問題があってな、動物実験では1年前までの過去転送の成功の確率は98%なんだが、それ以上の過去転送の実験データがまだない。ここで立ち話もなんだから私の部屋に行きましょう」
所長室は同じ階にあった。博士は自分の部屋に入るにもIDセンサーに左腕を近づけている。少し離れて後ろを歩いていたタカシは清野に小声で尋ねた。
「清野さん、どこへ行ってもIDセンサーがあるんですか?」
「そうです」
「他の人はIDセンサーに腕を近づけなくていいんですか?」
「今、部屋に入ったら入り口の両側をよく見てください。腰の高さ辺りに別のセンサーがあります。それで全員のIDを感知しているんです」
清野の言うとおり、博士の部屋の入り口に小さなセンサーがあった。博士の部屋は研究者の部屋と言うよりも余計なものが一切置かれていない応接室といった感じだった。
「さあ、適当に座って。飲み物はコーヒーでいいかな」
博士は自分でコーヒーを入れ始めた。
「タカシ君、どうかねここの生活は」
情報部長の吉村が尋ねた。
「はい、清野さんのおかげで何一つ不自由なく過してます」
「頭の傷はもう痛くないかな」
「はい先生。傷があることさえ忘れてました」
タカシのこの言葉で、場の雰囲気が明るくなった。田沢博士の入れたコーヒーの香りが部屋の中に広がった。
「ささ、熱いうちにどうぞ。砂糖とミルクは各自お好みで。どれどれ今日のコーヒーはどんな出来かな。…ん、これはいい。自分でほめてりゃ世話ないな」
「ところで博士、我々情報部としてもタカシ君を元の世界に返すことには賛成なんですが、先ほど博士はタイムマシンに問題点があるとおっしゃった。それを我々にもわかるように説明して下さい」
「一番の問題点は、まだ人間による実験を行っていないので、果たして動物実験の時のような高い成功率を維持できるかだ。若い連中は基本組成が同じなんだから、人間でもできると考えているし、自ら実験台になることを志願する者もいる。しかし、私としては、さらに動物実験の成功率を高めてから人間で実験したいと考えている。そのときは私が実験台になるつもりだ」
「他にはどんな問題点があるんですか?」
「時空間移動というのは1年の移動も100年の移動も同じ理論だが、確かめたわけではないので証明のしようがない。だから、1年くらいの範囲での動物実験の成功率は98%と言えるが、それを超えると保障できない。それともうひとつ、2つの実験体を同時に送った場合、非常に低い確率だが実験体に異常が起こる。最悪の場合死に至ることもある」
「移動する場所と時間はどれくらいまで正確にできるんですか」
「これまでの実験の結果だと、場所についてはほぼ100%、時間については指定日±10日の範囲であればこれも100%保障できる」
「じゃあ、成功率98%と言うのはどういう意味ですか」
田沢博士は目を閉じて、その質問には答えなかった。懸命に何かをこらえている様子だった。そのとき小菅医師が口を開いた。
「ワシが代わりに話そう。実験初期段階でのマウスによる実験が成功したので,博士は自分の飼っている猫を移動させることにした。1年未来へ送り込んだ。指定日から10日過ぎた日だったそうだ。自宅の庭で閃光と共に大きな音がして、急いで行って見たらその猫の無残な姿がそこにあったそうだ。」
黙って話を聞いていたタカシが、意を決したような表情で博士を見た。
「博士、俺を2011年に送ってください。どうしてももう一度会いたい人がいるんです。お願いします」
一同は黙ってタカシの顔を見た。
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小説「約束」14/20…夢

1月7日から始まったSFロマンスです。毎週金曜日に掲載して20話で完結します。今回は第14話です。

14 夢

映画のヒロインは魅力的な女性だった。彼女は死んだ恋人の思い出から抜けられず苦悩の日々が続いていた。その元恋人も彼女に未練があり現世をさまよっていた。やがて彼女には新しい恋人ができ,元恋人は二人を見守ることになる。
そして彼女が飛行機事故で川に不時着したとき,元恋人は死にかけた彼女を助けた。もし彼女が死ねば自分の世界にやってくるのに,彼女を助けて新しい恋人のところに戻した。
「タカシ君,あの映画をどう思いました?」
図書館を出た清野は、すぐにタカシに映画の感想を聞いた。しかし、タカシが答える前に清野は自分の感想を述べた。
「私はなくなった恋人の気持ちがよくわかります。自分はもう死んでいるのに、いつまでも彼女に未練を持っていれば、彼女自身も幸せになれない。今自分にできることは、彼女の幸せだけを考える事だって思ったんじゃあないでしょうか」
「俺も結局はそうするでしょうが、でもあんなに綺麗に俺の考えがまとまるとは思えません。彼女が新しい恋人と踊るのを、死んだ恋人がそばで見ているシーンがありましたよね。清野さんはあのシーンをなんとも思いませんでしたか?」
「踊りながら、熱いキスを交わすシーンですね。元恋人にしてみれば、どんなに辛かったでしょうね。でも、彼はもう死んでいるわけですし、生きている彼女をいつまでも縛っておくのは彼女の幸せのためにはなりませんよ」
清野はタカシより年上の分だけ、分別のある考えだった。しかし、タカシはたとえ死んだものであろうと男女の気持ちというのは、そんなにあっさりと納得できるものではないだろうと思った。
「俺はあの映画はあまり好きではありません。たとえ死んだ恋人でも、あの映画は彼に人格を与え、生きている人間のようにして扱っています。その彼に、新しい恋人と彼女の熱いシーンを見せる必要がどこにあるんでしょうか。俺はまだ年もいってないし、考え方も幼稚なのかもしれませんが、本当に愛した人を思う気持ちって、そんな理屈で割り切れるものじゃないと思います」
タカシの真剣な表情を見て、清野はすこし戸惑った。
「でもねタカシ君、あの映画の主人公は死んでいて、絶対に彼が彼女を幸せにすることはできないんですよ。仮に何らかの方法で彼女が彼の存在に気が付いたとしても、彼女はただ彼を思うだけで触れることも話をすることもできない。彼女は生涯ずっとそんな悲しい思いを持ち続けなければいけない。果たしてそれが彼女にとって本当の幸せなのでしょうか。そして彼の望んでいることなのでしょうか。私だったら、自分の愛した人にそんな思いは絶対にさせたくない」
清野の話はタカシの心に響いた。タカシは、死んだ恋人を生きている人間のように考えていたことに気が付いた。元恋人は絶対に彼女を幸せにはできないのだという清野の言葉は、タカシの胸に突き刺さった。それを考えると、主人公の辛さと寛大さが光を帯びてきた。
「清野さん、俺、こんなこと真剣に考えたことないから、あとでもう一度冷静によく考えてみます」
タカシは素直に自分の気持ちを伝えた。その時、清野になら自分の気持ちを話してもわかってくれるだろうと思って、涼子のことを話した。
「俺には23年前の世界に好きな人がいます。一緒にいるときは別になんとも思わなかったけど、いなくなって初めてあいつの大切さがわかりました。俺が落ち込んでるときにさりげなく電話をかけてくれたり、自分の勉強を後回しにしても俺に教えてくれたり、とにかく優しいヤツでした。あいつの髪をあげるしぐさが好きでした。一緒に勉強しているとよく左手で髪を耳の後ろに上げるんです。俺はそれを見て顔がほてってきました。たったそれだけのしぐさが俺にはとってもかわいかったんです」
「左手で髪をあげるしぐさ?」
清野はふと、さやかもそんなしぐさをするのを思い出した。でも脳裏に浮かんだことをすぐに否定した。
「俺はあした時空研究所に連れて行ってもらった時、俺をもとの世界に戻してくれるように頼むつもりです。皆さんの話ではタイムスリップはこの23年後の世界でも技術が完成されてないそうですが、それが絶対に無理だとは聞いていません。だから俺はその実験台になってもいいと思っています。このまま何もしないでここにいるよりは、たとえわずかな可能性でもいいから、涼子ともう一度会えるかもしれないというチャンスにかけてみたいと思っています」
「タカシ君ならそう言うと思いました。もし私が君の立場なら同じことを考えると思います。そのことについてはあしたの話をじっくり聞いてからにしましょう。多分大きなリスクが伴うと思いますが、それでもタカシ君がそうしたいというのなら、私も力を貸しましょう。」
「はい、ありがとうございます」
「私はこれから会議がありますので、タカシ君を部屋に案内してからそちらにいきます。帰りは遅くなるので、夕食は一人でしてください。後で部屋に運ばせます。それと、明朝は8時に迎えに行きますから準備していてください。もし何か困ったことがあったら、ブレスレットで私を呼び出してください。じゃあ、部屋に案内しましょう」
二人はエレベータ向かって歩き出した。ほんの短い散歩ではあったが、お互いの考えを少しなりとも理解できた気がした。
その夜、タカシは夢を見た。涼子と二人で手をつないで公園を歩いている。見覚えのある公園だ。雪で真っ白になった景色の中に他の人影は見えなかった。涼子はタカシの左側を歩きながら、雪の匂いがするねと言った。タカシが彼女の顔を見ると、それは涼子のようでもあり誰か他の人のようでもあった。あわてて、つないでいた手を離した。
タカシは目が覚めた。夜中の2時半だ。涼子の顔をはっきり思い出すことができない夢の中の自分に腹立たしかった。

この23年後の世界に来てからまだ数日しか経ってないのに、もう何ヶ月も涼子とは会ってないような気がする。
(俺がいなくなって皆心配しているだろう。特にあいつは、からだを壊して寝込んでいるかもしれない)
タカシは先ほどの夢のことを考えた。おせっかいに感じていた幼なじみの涼子を女性として意識するようになって、初めてデートしたのがあの公園だった。タカシがデートに誘った時、涼子はとてもうれしそうだった。何も話さなくても、一緒に公園を歩いているだけでそれだけで幸せだった。あの時は時間があっという間に過ぎた。もう一度涼子に会いたい。会って声を聞きたい。タカシは、生まれて初めて感じている自分の激しい恋心に戸惑った。涼子のことを考えれば考えるほど胸が苦しくなる。タカシは布団の中にもぐりこんで気持ちを落ち着けようとした。

タカシはまた眠りの中に入った。
明るい街路に面したカフェの窓辺に涼子がすわっていて、テーブルの向かいの見知らぬ男と楽しそうに話している。涼子が通りにいるタカシに気がついて手を振っている。タカシも手を振り返したかったが体が動かなかった。涼子がその男に何か話をすると男がこちらを見た。見たことのない男だ。涼子がその男を残して立ち上がり、店を出てタカシの方にゆっくりと歩いてきた。ずいぶん大人びた服装だ。数メートル先に立ち止まって、いつもの笑顔でタカシをじっと見つめている。
いつの間にか公園に来ている。見つめ合う二人の間に落ち葉がひらひらと舞い降りている。タカシが全身の力を込めて両手をゆっくりと差し出すと、涼子は泣きながらタカシの胸に飛び込んできた。タカシは涼子をしっかりと抱きしめた。

翌朝目が覚めたとき、タカシは気持ちが疲れていた。一晩中涼子を想い、それが幻となって何度も出ては消えた。そのたびにタカシは涼子のいない現実の世界に引き戻され、とうとう朝まで深い眠りに入ることができなかった。
タカシはベッドから出てすぐに熱いシャワーを浴びた。湯温を45℃に設定してボタンを押すと、最初は体温より少し熱めのお湯が足の方から勢いよく噴出した。それが上半身の方にもゆっくりと広がってくる。足に噴出しているお湯の温度が少し上がり、それが上半身に広がり、これが次々に繰り返されてやがて全身が設定した温度のシャワーに包まれる。しばらく快適な気分を味わってからシャワー室を出た。着替えの新しい下着をつけてから、学生服を着て身支度を整えた。

タカシはソファに座って昨夜の夢を思い出そうとしたが、断片的にしか思い出せなかった。でも涼子の顔ははっきりと頭の中にあった。気持ちを落ち着けて清野が来るのを待った。
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2011年04月10日

被災地支援ボランティア

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消防分団員有志で大船渡市に行ってきました。

想像を絶する巨大津波の爪跡を目の当たりにして,ただただ無言になるばかりでした。秋田を午前4時に出発し,現地到着は午前7時50分でした。総合防災センターで受付をして,地元の消防団員の案内で海岸線を南下,災害の大きかった地区にたどり着きました。

9人が2班に分かれ,高台に建つお宅のがれきの撤去作業にあたりました。驚いたのはそのお宅の屋根の半分まで津波が押し寄せていたことです。家の前に置いた自動車が濁流に押し流されて,狭い通路を通り裏庭まで流され最後には家に突き刺さったという,生々しい体験談と現場のすさまじさはおどろかされました。

上の写真は,眼下に広がるがれきと倒れた松の大木を撤去している様子です。大震災後1か月も経つのに,現場はいまだにこのような状態です。復興のためには1人でも多くの人出が必要であり,被災地のボランティアの募集を探して駆けつけてください。そのためには出発地でボランティア保険に入り,燃料や食料はすべて自分で準備するという自己完結の活動が是非とも必要です。
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2011年04月02日

災害ボランティア

4月10日、消防分団員有志で災害ボランティアに行くことになりました。

行先は陸前高田,自己完結で総勢8名です。
自己完結というのは,自衛隊のように必要な物資はすべて持ち込み,現地には一切迷惑をかけない活動のことです。もっと具体的に言うと,往復の燃料,ボランティア自身の食事,長靴や雨合羽・ヘルメットなどの身支度,スコップなどの道具,ボランティア保険など,活動に必要なものすべてをこちらで準備して被災地に向かうことです。

がれきの撤去作業をはじめ,要請されたことは何でもこなすことをお伝えしました。どんな作業があてられるかは未定です。分団員は本業を別に持っていますから,その道のプロの集団の力を大いに活用してほしいと考えます。
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